丹生鳥野さんの投稿小説

宇宙の意識

(4) 

2024/04/19



「心という臓器はないよ。」と次田が反論した

「臓器には特定の機能があるだろう。

例えば、心臓は血液の循環、肺は空気中の酸素を取り込んで炭酸ガスを吐

き出す臓器、胃は消化などだ。

でも、脳は人の意志を作り出してはいるが、心そのものの臓器ではない。

何億という脳細胞がお互いに連絡し合ってどのようにして結論を出してい

るのかわからないけれど『私の気持ち』という意識が生れる。

けれど『私』という臓器はどこにもない」

「うーん。脳細胞の活動で一つの結論が出ているのは事実なんだろうと思

うけれど、たしかに、わからないねぇ。」

「今、世界中の様々な学者が『意識』がどうして生れるのか研究している

ようだ。

君は茂木健一郎博士の名前は知ってだろう。

彼は『クオリア』について研究している。

『クオリア』というのは、例えば赤いリンゴを見た時、これは赤いと思う

けれど、どうしてしみじみ赤いと感じて納得するのだろうか。」

話が難しくなってビールを飲む手が止まってしまったが、もう一杯づつビ

ールを注文した。

次田がまだ心の問題にこだわっていた。

「話しが飛ぶけれど、一目ぼれっていうよね。

経験があるかい。

これって、好きなタイプの女性を見た瞬間、『好きだ』と思うことだろ。

ところが『瞬間』というのが問題なんだ。

リベットの実験というのを知っているかい。

この実験で『私』とは何だということで大騒動になったというんだ。」

上保は次田の話についていけなくなるのではないかと心配になってきた。

「僕は哲学の素養がないので付いていけないかもしれない。」

次田はつづけた。

「最近の計測技術が素晴らしく高度になっていて、脳細胞の活動が検知出

来るそうだ。

それでリベットという学者が被験者の脳細胞の活動を検知出来る装置を使

って被験者に実験台になってもらって様々な質問をした時の脳細胞の瞬時

の反応を調べたんだ。

それで、被験者に質問をすると被験者の脳細胞が先ず働き出して被験者が

口頭で答えるまでに
0.2秒かかったんだ。

すなわち、脳細胞がまず活動を始めて結論を脳細胞の何処かに伝えて、被

験者はその結論を『私』という意識で答えていたというんだ。

『私』っていったい何だろうね。」

 

                           (つづく)






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