小意気爺さんの投稿小説

熟年慰安夫

 (21)

2024/04/21



邦仁が大路の派遣依頼を断って以来、しばしば電話がかかってきていた。

充が留守番をしていて邦仁が食材を買いにスーパーに出かけている時に電

話が掛かってきた。

充は無視していたのだがあまりに何度も呼び出しが鳴ったので、邦仁に大

事な電話かもしれないとおもって受話器をとった。

「はい、どなたですか」

ぶっきらぼうな言い方をした。

「あっ、相生さんですね」

相手は充の声を覚えていた。

「今日は事務所にいらっしゃるんですか、ちょうどよかった。

先日から何度も所長さんに電話をして、相生さんに来てほしいと御願いし

ていたのですが、その都度、相生さんが不在だという事だったのです。

今日、派遣先の予定が無ければ、こちらに来ていただけないですか

私はこの前に相生さんと会ってから、会いたくて堪らないんです」

「あのう、私の一存では決まらないものですから、所長が外出先から戻り

ましたら相談して連絡をさし上げますのでよろしくお願いします」

「所長さんにはくれぐれもよろしくお伝えください。

連絡をお待ちしておりますので、よろしくおねがいいたします」

充は嘘を付くことに耐えられなかったので「はぁー」と大きな息をして椅

子に座り込んでしまった。

 

邦仁が買い物から帰ってきた。

「充、今晩は充の好きな料理を作るからな。

老人の料理教室で習ったから、うまいとは言えなくてもほどほどの料理が

つくれる」

邦仁は充がプールの後に立ち寄ったので上機嫌ではしゃいでいた。

「邦さん、電話が何度も鳴るから大切な用事かと思って取ってしまった。

こちらがしゃべる前に大路さんが僕の声を覚えていて気がついた。

今晩の宵の時間帯に来てほしいと言うんだ。

電話を取らなければ良かったけれど、後の祭。どうしよう。」

「この前、充が大路さんのところにいって、儂が待っているのにすっぽか

してマンションに帰ってしまったから、寂しくて泣いていたんだ。

人に相手にされない辛さはわかるだろ。

大路さんは充にのぼせ上って待ち焦がれているんじゃないのか。

対応してあげなければかわいそうじゃないか。」

「邦さんはそれでいいのですか」

「充がこの前、プールから帰ってからずっと抱いてくれて、夜は長い時間

をかけて気が遠くなるぐらい絶頂にしてくれた。

充が儂を捨てないことがよくわかった。

充は大路さんとビジネス・ライクに体を交わすだけだと割り切って考えて

いると言っていただろ。

儂は何時までもぐずぐず言っているのはこんな歳の男のすることじゃない

とおもうし、充に優柔不断の女々しい男と思われたくないから踏ん切りが

ついた。

充が帰ってくるまでベッドで我慢して待っているから、大路さんと済んだ

ら必ず帰ってきて儂を抱いてくれ。

それが儂の条件だ」

「邦さんがそう割り切れるなら僕は行くことにする。

大路さんが今か今かと電話を待っているから、邦さんさんから僕が行くと

連絡してください。

僕は夕食を食べてすぐに出かけます。」

 

                           (つづく)






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