和兄爺さんの投稿小説 №1

 下宿住まいの頃

 (1)

2024/04/24



親元を離れて通学している最近の学生はマンションの一室を借りて住んで

いるのだろうが、戦後の混乱が多少収まって生活が曲がりなりにも出来る

ようになった頃にマンションなどという気の利いたものはなかった。

親元を離れて大学に通学するほとんどの学生は6畳一間程度の賄付きの下宿

に住んでいた。

これはそのころの話である。

 

小田切一雄は地方に住むサラリーマン家庭の6人兄弟の末っ子だった。

一雄は高校での成績が優秀だったので、高校教諭の勧めによりある県の国

立大学を受験して合格した。

彼が住んでいた地方で大学合格者が出たのは一雄が初めての事であった。

 

彼は親元を離れ、下宿生活をすることになった。

生活費は親の仕送りに頼っていたが、終戦直後の事であり、親がかなり無

理をして仕送りしてくれていることが分かっていたので、下宿を商売とし

て学生に部屋を貸している下宿屋ではなく、空いている一室を学生に安く

貸す普通の家庭を探し当てて下宿し、できるだけ切り詰めた生活をしてい

た。

賄いつきの下宿だったから、朝・夕の食事は下宿で食べることが出来たが、

当時は米や食料も配給制だったから、あまりいい料理とは言いかねた。

 

同級生には生活費の足しにするために家庭教師などのアルバイトをする学

生もいたし、クラブ活動に力をいれてあまり勉強しない者もいた。

しかし、一雄は勉学に励みたいと思っていたので時間を大切にしていた。

 

当時、家内風呂は裕福な家庭にしか無かったので、一般家庭では銭湯に行

くのが普通だった。

一雄は生活費を切り詰めるためもあり、銭湯がかなり遠い所にあったので

勉強時間をできるだけ多くしたいという気持ちがあったので、銭湯には週

2回程度しか行かなかった。

 

                           (つづく)






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