和兄爺さんの投稿小説 №2

 下宿住まいの頃

 (2)

2024/04/25



銭湯への道すがら、小さな一軒家があった。

夏の暑い日、日が落ちて風が吹き少し過ごし易くなった時間にその家の前

を通ると、道に打ち水をして竹製の床几に座って話している越中ふんどし

だけの二人の老人を見かけた。

当時は越中ふんどしは珍しい姿ではなく、徴兵検査の写真では全員が越中

ふんどしをしているので、むしろトランクス型のパンツの方が珍しい時代

だった。

たから、一雄にとってふんどし姿は珍しくなかったのだが、今住んでいる

ところではやはり珍しかった。

 

老人の一人は日に焼けて褐色がかった艶々した肌をしており、大柄で肉体

労働をしているような引き締まった筋肉質の体格をしていた。

そして、もう一人の老人も肉体労働をしているような感じだが、色白で中

肉中背というよりむしろ小柄の体つきだった。

がっちりタイプの老人はもう一人の老人よりかなり年上の様なのだが、二

人とも肉体労働をしているせいかとても元気そうなので年齢の見当が付か

なかった。

 

一雄は銭湯に行く途中の小さな家の前で見かけた越中ふんどしの小柄の老

人をいつも脱衣室で見かけた。

彼は少し前までそれほど汚れていない越中ふんどしをしめていたのだが、

半年ぐらい前から汚れてシミがついた皺だらけのふんどしをしているよう

になっていた。

それまで、彼は湯船に浸かって壁に描かれた松原と海を隔ててそびえる富

士の絵を見て小さな声で鼻歌を歌った。

しかし、最近、脱衣室の「洗濯おことわり」の張り紙を無視して、汚れた

ふんどしを浴室に持ってはいり、石鹸で洗うようになっていた。

 

最近、一雄が脱衣室で体を拭いている時、湯から上がっていた老人が一雄

の裸をじっと見つめているようになっていた。

 

銭湯に行く時間に必ずその老人がいた。

なにか意図があるのかもしれないと、時間をずらして銭湯にいったがやは

り彼がいて、湯上りにぶんどしを締めない裸のままで一雄に向かって立っ

ていて、一雄の裸をじっと見つめていた。

時間帯を変えても彼の家の前を通るから、彼には一雄が銭湯に行く時間は

すぐに知ることができる。

しかし、ふんどしをしめない裸の姿で一雄に向かって立っているのは解せ

なかった。

 

                           (つづく)






トップ アイコン目次へもどる    「投稿小説一覧」へもどる
inserted by 2nt system