北南さんの投稿小説

 ある凡人の生涯

 第三章 青年会

 [5] 惨(ムゴ)い離別

主な登場人物
2024/04/21



わしらの交わりが激しすぎて子種が上手く育たなかったんかもしれぬ。

彼女が『孕んだかもしれない』と言い出すまで2年近くもかかっちゃった。

仲人の和尚様
(オッサマ)には

「仲が良すぎるっていうのも考え物じゃのう。

お前ら、ちっとやりすぎじゃねえのか?手加減しろよ」

と言って冷やかされたんじゃから……。

 

 

仲間の連中からは次々と『子ができた』とか『妊娠した』という情報が入

って来たからいささか焦ったわい。

孕むのが待ち遠しかったのう。

 

じゃから、生理が止まってから3カ月間、産婆の指導を素直に聞いて、流

産しないようにとセンズリだけで我慢した期間は長く感じたわい。

 

そんなわしにイツ子は同情していろいろ盡してくれたんじゃ。

わしの怒張した陽根を、かわいらしい手でしごいてくれたり、そのうちに

わしからのたっての頼みをことわりきれず、おちょぼ口を膨らませて頬張

ってくれたんじゃもの。

 

気持ち良かったのう。あれがわしらの前戯のパターンになった。

あの可愛い口で、時にはえずきながら必死でしゃぶってくれたんじゃ。

 

そんなことをしながらも、イツ子はお袋のタツのいうことにはよく従がっ

ていたのう。そんな彼女にお袋もあまり意地悪はしなくなったが、いちい

ちこまかい世話焼きをして、つらい目に合わせていたんじゃ。

 

そんなイツ子の苦労も露知らず、わしは自分のペースで彼女を求めていた

んじゃ。色気ちがいの馬鹿者亭主以外のなにものでもなかったわい。

一人目は女の子で、続けて孕ました子は待望の男児じゃった。跡継ぎ誕生

に家を挙げての祝い酒じゃったのう。

 

「よし!続けて仕込めばまた男児じゃ!」

わしゃイツ子の体調の変化も考えず続けて作ることに励んだんじゃ。

彼女は自分の健康を顧みることもなく従順にわしの求めに応じ、一方では

小うるさいお袋にあれこれ指図されながら家事に追われていたんじゃ。

じゃからイツ子はあんな病気になっちゃったんだ。

 

 

ある晩、わしの絶頂間際というときに、不意にイツ子が苦しみだし嘔吐し

た。

それが手始めじゃった。彼女は頭痛を訴えて寝込むようになった。嫌味タ

ラタラのお袋に反論することもできず、微熱に悩まされながら次第に衰え

ていったのじゃ。

 

設備の整った隣り町の日赤病院を紹介され入院してまもなく医者との面談

があった。

冒頭の医者の言葉にわしゃ谷底に突き落とされた。

「奥様の病気は前頭葉にできた脳腫瘍ですが、大分進んでしまっていて危

険な状態です」

 

イツ子はわしらの必死な看病や祈りもむなしく2児を残したままはかない

生涯を閉じてしまった。わしが30歳、彼女は享年28歳じゃった。

 

 

幼い2児をかかえての男やもめ生活が始まった。

追い打ちをかけるように頼りにする親父の宗衛門が2年ほどして風邪をこ

じらせてあっけなく身罷
(ミマカ)った。

頼りにする人がいなくなってしまったんじゃ。

 

お袋のタツは2児の世話を焼きながら不平タラタラ、和尚様と従兄の剛雄

(ニイ)に助言をもらいながら一家をやりくりしてきたんじゃ。

そんな中でわしの倅は、遠慮会釈もなく行き場を求めて生え勃つのじゃっ

た。

 

                           (つづく)






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