美篶(ミスズ)さんのエッセイ №89               .




冬の山々




久しぶりに雲のない山がみえたので、定期健診で外出したついでに撮影し

た。

蓼科山を撮り終えてふと右横を見たら大きな白月が目に入った。

早速カメラに収めようとしたら、「バッテリーが上がりました」といって、

カメラの使用が不能になってしまった。

素人の撮影って、こんなへまばかり。

 

(4)


陽光を頂に残した蓼科山(たてしなやま)2530m)



茅野市豊平にて撮影

 

諏訪盆地からあおぎみる円錐状の山容から諏訪富士とも言われている。

昭和23年、中学1年のとき、はじめて登山という名前のもとに登った山

である。

単調な原生林の登山道は、火山特有の巨岩が厚い苔におおわれていた。

苔むした岩と岩のくぼみは、鬱蒼と生い茂る樅の木などの針葉樹に陽光を

さえぎられ、怪しい雰囲気をただよわせている。その直前に学校の集団観

劇ではじめて見た、総天然色映画「石の花」の画面とかさね合わせて感嘆

の声を上げたのを思い出す。

学友約90名が登頂後、ふもとの蓼科高原のやどに宿泊した。

 

初めての登山に興奮したわたし達は、夜遅くまで騒いでいて、引率の先生

に叱られてシュンとなった。

幼くして父を亡くしたわたしが、父の面影と重ね合わせて憧れていた、ず

んぐりむっくりした熟年の先生だった。

手の甲にまで、黒々とした体毛がモジャモジャ生えた太っちょ先生は、よ

くわたしをハグして下さった。

つづく










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